2020年8月30日日曜日

「米沢地区 Looop ソーラー対策協議会」報告と関連報告 塩沢 幸子

 諏訪市四賀ソーラー Looop撤退決定 

 6 16 日信毎一面トップ、イージス計画停止の 記事より優先して「撤退検討」の記事が踊ってい た。朝からあちこちから電話があり、皆、声が弾 んでいた。いよいよか? しかし、まだ確定ではな い・・。 でも全県版の記事だ!まず間違いないだろ !! 張りつめていた気持ちが宙ぶらり んで県庁へ。当日は県環境部へ要望書提出の予定 だった。撤退確定では無いので、今までの流れのまま要望書を提出。 

 県から国への「知事意見」提出時には、不適切
なアセス対応を含む報告も併せて国へ提出するこ
とを求める内容だった。県からは「全てを網羅し
た知事意見を届ける」との回答であった。後の意 見交換の中で、県もこの新聞掲載情報については全く知らされておらず朝の記事で知り驚いたと言われた。 

 その後の記事では、撤退の理由として1アセスにおいて十分な対策が示せない2採算が取れないと のことだった。また、最終的には3両市からの厳しい市長意見が決定打となったとあった。 


○61 両市長意見公表 

 両市長意見ともに、「・・を求める」の形式で、各問題点の具体的事項について、検証・対応を求める内容となっていた。地元の情報や意見、専門家からの意見も最大限示された内容で、現状の把握が出来ておらず調査も不足している事業者としては、クリアするのは非常に困難な意見となっていた。 

 茅野市の意見書は方法書に続いて精選された格調ある意見書であった。横河川下流域の災害への不 安・水質悪化による農業への影響、水道水源の大清水への影響を柱に、地元住民の目線に立ち、再調 査、計画の見直しを求める厳しい意見となっている。 

 今回、諏訪市長意見は、細部に至る厳しい指摘が 151 項目となった。準備書を全て読み込んだとも 思え、専門的な厳しい指摘の内容にも驚かされた。諏訪市も「求める」とした文章表現がほとんどで、 業者がそれに対応することは難しい。 

茅野市・諏訪市の行政担当部署を中心に、多くの関係部署も力を合わせて、厚さ 20 cm余にもなる 住民意見書(合計 875 人、1516 件)と、とんでもなく分厚い青い表紙の「準備書」を手に、大変な ご苦労されている姿が想像され、感謝で一杯。技術委員会にも毎回傍聴に足を運んでいただいた。両市職員の使命感とプライドだと思う。 


活動を振り返って・・・ 

地元で活動を始めたが・・・ 

 2015 2 1 日、新聞掲載で大きな計画を知った。これがどういうことになるのか分からないが、 霧ケ峰の裾野がこんなに広く開発されパネルが置かれてしまう嫌悪感が一番だった。 

 北大塩に影響がある、災害と大清水が問題だという。具体的な理解が進むうちに、これは大変! 地元が真剣にならなければ大変なことに、という思いだった。熊井久雄先生の論文があるというが、 茅野市役所には無いと言われてしまった(後に存在確認)。熊井先生には全く面識もなかったが、連 絡を取り論文を送って頂いた。しかし直ぐには理解できない。第1回住民説明会(2015.2.6)では発 言するのが精いっぱい。住民から根拠を示して「反対」することなど到底できない段階だが、地元を よく知る古老からは直ぐに、繰り返されてきた災害についての発言があった。大清水に関しては、「遠い所の事ですから」と影響が無いとの返答だった。その時点で事業者は熊井論文の存在は知らなかっ た。住民から問題点が指摘できない。住民の弱いところだ。既に業者はまあまあの調査を行い、想像図が出来、対応策もそれなりに用意されている。 

 不安・問題を直観で感じたおばさん 3 人が「米沢子供を守る会」を結成。取りあえず地元に細々とチラシを配り、次回説明会の参加を呼び掛けた。無関心者も多いが、2 回目(10.10)には何となく嫌な不安を感じる人たちが集まり、結局質問は終わらず夜11 時半を過ぎてしまった。3 回目(11.14) は時間切れにされた。この時、アセス要望の強い声が上がった。「住 民の皆さんが望まれるなら検討します。」と森田氏の回答。 

 この年 10 1 日、太陽光発電を対象とする県アセス条例改正が決まっていた。本件をアセス適用とする要望の署名を行った。集まった署名は地区内外から1519 名。短期間に集まったのは地元の他環境団体他、地区外の方からの協力もあってのことだ。ちなみに、Looop はこの間、アセスを実施しな いようにと知事宛ての署名を行っていた。 

環境会議通信に原稿を掲載させて頂き「環境会議 諏訪」入会、富士見のレノバ関係者との「太陽光発電問題連絡会」の組織に属し、経験の無かった反対運動に足を突っ込んだ。環境保護の団体にく っついて教えられながら動き始めたが、強く出れば地元では煙たがられる。地元住民が動くというのは本当に大変なことだと痛感した。取材や研究者の現地視察・意見交換会の開催を進めて頂いたり、 Looopへの現地視察申し込みも全て行って貰った。地元住民ではできないこと感謝でいっぱいです。 


現地を知る、情報をつかむ。 

「現地を知ることが一番!」と言われ、機会があるごとに計画地を訪れた。貴重な湿地が 5 つもあ ることやサクラソウの群落があるなど、今まで想像もしなかった地域だ。清らかな源流に北限のマス が生息しているなど、思いもよらないことだった。森林の様子や湧水・自然の様子を知るにつれ、ますます開発してはならない場所であると思った。地権者がこの価値ある一帯を大切に残そうと思わな いのが不思議でならない。 

 熊井論文の言わんとする事を理解したり、開発地周辺の理解のための資料集めを積み重ねる。諏訪教育委員会による調査報告が大変役に立った。教鞭をとりながら、地元の地質・動物・植物などを調 査・研究し、まとめ上げた教育者の、その内容とエネルギーにも驚かされた。 


地元住民活動 Looopソーラー対策協議会」

 問題意識が高まりつつあった、2017.6.30 北大塩区議会で行政区の期限付き組織として対策協議会 が発足。先ず行ったことは、住民の意思の確認として北大塩区内にアンケート調査を行い、区民の92.8%が「開発反対」であることを確認し、その思いを背負って活動を進めることを確認した。 

その後、影響が及ぶ米沢地区全体で行動することになり、「米沢地区 Looop ソーラー対策協議会」 となる。 

 任意の反対運動団体では無く、行政区内の組織となったことは、地区の支持を得て住民全体の意思を示す事になり、要望書提出や取材で発言がしやすくなった。行政との関係もスムーズになった。反 対する問題が地区内の賛否では無い事が幸いし、区民を同じ方向に向かわせることになった。情報提 供として、「おたより」を北大塩区内には全戸配布した。 

 署名活動は茅野市全体に関わる問題として、前代未聞の方法だったが、各地区の区長会を通じて協力を求め、多くの地区で快く協力して頂けた。地区内外からも協力を得、またインターネット署名も含めて 50.000 余筆の署名が集まった。2018.11.29 県庁へ五蔵、東部漁協と共に協議会員が横断幕を 掲げ要望書と共に届けた。 

 その後、協議会は単なる地域の組織だけでは無く、諏訪市を含む多くの関係者・団体がまとまって活動することが必要となり、連絡を取り合って活動を膨らめてきた。意見書の提出、要望書の提出には連名で対応するようになった。このことは反対運動の大きな力となった。意見書提出に関しても、 知恵を出し合い合同で提出をしてきた。 


アセスが動き始める 

 アセスの対象となり、先ず、方法書閲覧開始(2016.1.20)、地元説明会、意見書募集と手続きが進み始めた。説明会での質問や意見書提出には、地元の関心のある人も少しずつ問題意識を持ち動き始めてくれた。地元からの意見は 50 件、全体では115 件。普通のアセスでは無い数の多さだと言われ た。 

 技術委員会に傍聴できることを教えて貰い、その頃から環境団体と共に継続して傍聴してきた。 専門家と事業者とのやり取りから、専門家の指摘、事業者の様子をしっかり見届けることが目的であ る。準備書の住民意見提出に備えるため、傍聴は重要だった。 

 準備書閲覧開始(2019.6.28)までは調査期間は長かったが、想像より調査・報告は甘く、課題は残 されたままという印象だった。意見書に書き込むことが沢山ありそうだと感じた。多く人からの意見 書提出が必要なことは明白だった。参考文も用意しながら夏の暑い時期、地元だけでなく環境団体、 日本中の方からも協力を頂いた。準備書に対する意見提出は 785 人、1486 件という膨大な数となった。感心する程レベルの高い意見書もあったが、対する業者の見解はお粗末だった。これがアセス手 続として認められるのだろうか?と、誰しもが思った。そして、技術委員会での厳しい審議となった。 


勉強会の開催と、意見書の提出 

 問題点や不安について、講演会や勉強会を度々開いてきた。「何となく不安」だけでは、対応ができない。住民も学ばなくてはならない。 

 住民の理解を助けてくれたのが、富士見町の元大学教授の村上敏夫さん。専門的な理解が難しい一 般人に、新しい情報も提供して貰い、問題点を噛み砕いて説明して貰うことができたのは、大きな力となった。また、条例についても読み込んでもらえた。条例・法律に基づいて行政は動くので、事前の理解は必須で、知らないと損をする事も考えられた。 

 「大清水の湧出機構」については、小坂共栄先生に幾度となく講演をして頂き、更に決定打ともいえる「意見書」を県に提出して頂いた。技術委員会にも影響がある意見書であり、専門家の力を痛感した。 

 これらの学びは、今回の計画反対のためでだけでは無く、将来へ残し引き継ぐことが大切だと思う。 この開発問題が無ければ知らないまま過ぎてしまっていたことが山のようにあったと、つくづく思う。 


技術委員会 

 アセスの方法書・準備書の段階で技術委員会が開催され、傍聴してきたが、どういう展開になるのか予想もできなかった。この程度の業者の説明に頷いて進められてしまうのか? しかし、地元住民 の意見、公聴会の意見は勿論だが、各委員の専門的な立場からの厳しい意見が毎回出されてきた。 

 科学的なデータに基づいた見解を求める揺らぎない姿勢に、安心し て傍聴できた。終盤では、事業者が全く返答できない状況となった。 建設コンサルが変更になり、Looop の最高責任者が姿を消した。「ア セス」では止められないと、行政も、議員も、一般からも言われて、 挫けそうになった時もあったが、アセスに対し住民が隙間なく積極 的に取り組んだことで、「中止」の勧告はできなくても、今回のように撤退に繋がった結果は、今後のアセス事例に明るい可能性を感じさせる。ただ、今回の事業計画 が素人からみてもあまりに現実的でない杜撰なものであったことも自滅の要因となっている。


条例・法律・規則 

・アセス 長野県は2015年、太陽光発電に対してアセス適用とすると、条例変更をした。 住民は、目いっぱいアセスを活用した。疑問点・意見を十分出した。時間も引き延ばせた。 本年 4 月からは国アセスに移行したことによって、手続きが更に複雑になった。 

・林地開発 長野県は2015年改正により、住民合意に重点を置くこととなった。 今後の地元説明会が勝負だと構えた。 

 本年4月から、国に従って県も新許可基準が適用になった。計画変更が必要となった。 ・県自然環境保全条例今後の手続きで必要になるはずだった条例
・権利として 「水利権」北大塩の場合慣行水利権、「漁業権」は強い権利が主張できる。 ・経産省 FIT価格 2月末に40 → 18 に下落 

・協定書 諏訪市本年3月議会で諏訪市と牧野組合の協定書について取り上げられ、今現在も有効で あることが明らかになった。開発に関しては、「協議」が必要とのこと。 

等、「条例のとおりにしか行政は動けない」と言われ続けてきた。「条例に則っていれば、四賀ソー ラーも中止にはできない」。「業者に押し切られてしまう」「規則は効力がない」等、繰り返し言わ れて凹んできた。業者も「法令に則って」との発言をくりかえしていた。 

 しかし今回、その条例に従って、住民はできる限りの手段を、多くの人達と力を合わせて実行して きた。「法令は文字通りの理解では無く、力関係で動く」と言われた。今回は多くの住民・市民の力 が勝っていたといえると思う。智恵を絞り、落ちなく、出来る限りの対処をしたと言えると思う。他 の事例では思うような展開ができていないことも聞くのは残念なのだが。 

 県にアセス条例・林地開発条例の改正をして貰ったことは大変重要な意味を持っていた。 

弁護士さんをお呼びして勉強会も行ってきた。どの様に法令を使うか、住民も学ぶことでより良い 対処が可能であることを学んだ。 


運動の広がり 

 私個人の立場からみると、初めは環境団体に支えられ、学んだことや得た情報を地元に届けることから始まった。地元で活動団体「協議会」が発足し、住民が動き出した。しかし、勉強会の開催や現地視察は地元ではなかなか進められない。時には地元主体で、時には環境団体中心でと、協力を頂きながら進めてきた。更に「全国メガソーラー問題集会」にも参加し、報告をした。 

 後半になって、諏訪市の盛り上がりが望まれる頃だった。「小さな勉強会」を野口美和さんに企画して貰ったのをきっかけに、諏訪のママさんたちが立ち上がった。それからは、すわっチャオでの勉強会を重ね、あっという間に諏訪に火がついた。その勢いは驚くほどだった。こうした繋ぐ人の存在 も大きく、切れることなく広がった輪が議員や行政にも無関心ではいられない状況となった。こうしたひとつの出来事が欠けることなく、繋がってきたのだと思う。あの時、ああだったら、と悔やまれ ることが思い浮かばない。それぞれのタイミングで関係者がうまく動いて頂けたのだと思う。感謝

 県条例改正によるアセス施行前に申請を出すのではないかと毎日気をもんだ頃、Looop は申請する つもりで当時の区長会長(北大塩区長)に印鑑を貰いに来たのだという。「俺は絶対押さない!」と 拒否したことを最近聞くことがあった。もし、あそこでよく分からないまま、勢いに負けて区長が押 印していたらと考えると、今更ながらドキドキしてしまう。今頃工事は終わっていただろう。 


報道関係者に感謝 

 報道は中立の立場ではあるが、先ず報道して貰うことが重要。記事になる事、表現の仕方で意思を 持つことも今回の事例で痛感した。地元紙は、必ず取材に駆けつけ丁寧に事実を伝え続けてくれた。 信毎のシリーズ掲載は、住民の関心を高めてくれた。全国紙は、利害関係があり地元紙が自由に書け ない内容を大胆に取材してくれた事もあった。それぞれ、住民は情報を得るために必要な記事であっ た。6 16 日の信毎「撤退検討」の記事は一面トップにあり、県内に広く知らせる大きな記事となり 驚かされた。記者の皆さんには本当に感謝です。また、牧野の立場にも言及して貰えたので、次の段 階へうまく進めたら、と願うばかりです。 


今後・・ 

 牧野組合の現状についての情報を得ながら、計画地の今後、森林の管理についての将来像が描けた らと、思うところです。行政が応援をするとの会見がありました。諏訪では「子孫に自然を残そう! の声が出されています。この計画で知ることとなった、計画地を含む自然環境は、貴重で人々の暮し に深く関わっていることを学びました。 

 個人の林も、財産区の森林管理も、問題は全国共通です。高齢化と林業の衰退傾向が問題ですが、 一方で、林業に燃える若者達も目立つようになりつつあるように感じます。ドイツではなりたい職業 のトップが林業だとか。林業士会のコメントとしては、計画地は収入を得ながら管理できる可能性の ある林だそうです。 将来に向け、より良い方向が見いだされることを願うばかりです。 

多くの方のお力とご協力、本当にありがとうございました。