しばらく前から、周りに広がるカラマツ林の姿に異常を感じています。間伐が進んでいるとはいえ、まだまだ広い範囲で「ソウメン立ち」の姿をとどめているカラマツ林。その林をよく見ると、その中に枝いっぱいに実をつけた木が目立ってきました。最初に気づいたのが今から数年前になるので、現在のカラマツの推定樹齢が平均して45年~50年として、40年生あたりから実をつけるようになったのではないかと思われます。天然カラマツの生態からすれば、これは異常に早い開花です。天然のカラマツ(略して「テンカラ」と呼びますが)その開花、着実樹齢は推定で100年以上といわれているので、それが40年生ではちょっと若すぎるんじゃないか、ということです。一般に花を咲かせ種をつけるのは、ある樹齢に達し(十分な発育によって生殖器官を充実させ)たのち、充実した遺伝子を継承した種子を実らせ子孫を残していく、ということになるわけですが、これとは逆にその樹木に何らかの異変が起き、枯死するかもしれないという緊急事態に直面したときも樹木は花をつけ、種子をつけます。「弱ったときにも花をつける」といわれる現象です。今見るカラマツの結実は、これに当たるような気がします。
植林されたカラマツは、湿潤で栄養豊かな土地と温暖な気候(カラマツにとって)という条件の下で育っているのに比べ、テンカラの場合は、生育地が標高1800メートル以上と、風も強い寒冷地で、なお砂礫地や岩稜地帯で栄養分の少ない乾燥地という、生育条件の非常に厳しい所です。一般常識からいえば、良好な生育条件の下で育った樹木のほうが健康でのびのび育つように考えられますが、それはあくまで人間の浅知恵、カラマツにとってみれば、寒く厳しいところが最適な環境であって、「湿っぽくてドロドロした土と、ぬるま湯のような気候なんて、とてもじゃないが生きていけん」といっているに相違ありません。
標高1200メートル、高冷地に暮らす私なんかも、もし仮にインドネシアの密林に放り込まれたら、同じように文句を言うでしょう。その樹木や草花にとっての最適な生育条件は、その地域の生態系の中で与えられた任務と相関関係にあります。カラマツやトドマツ、ハイマツなどの樹木、コマクサなど草花は、高山や寒帯の緑化を任務としている植物です。その仕事を完遂するために、そこの環境に順応した体や機能を備えています。ですから人間が考える温暖で、穏やかな気候は最適な条件どころか、最悪の条件なのです。カラマツが若くして実をつけるという現象を私たちは異常と捉え、もっと注意深く観察していかなければならないんじゃないかと思います。
カラマツの生態については、日本の樹木の中でも最も知られていない種のひとつです。かつて日本で最も早く植林したカラマツを皆伐して、ここに再びカラマツを植林したときの報告があります。再植林したカラマツが全く育たなかったというものですが、その原因はまだ完全にはわかっていません。馬鹿の一つ覚えのように、ただひたすら間伐をしていけばカラマツ林は豊かな森になっていく、なんて言っていると、あるとき突然その森全体が枯れ木の山、なんてことがあるかもしれません。
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